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「人が辞めない職場」ではなく、「居場所がある職場」を目指すということ
人は“ここにいていい”と感じられるとき、自分らしく働ける
社員が辞めずに長く働き続けてくれること。これは、どんな企業にとっても共通の願いだと思います。
でも、ただ“辞めない”状態を目指すだけでは、本当の意味での定着にはつながらないかもしれません。
大切なのは、その人がその職場に自分の居場所があると感じられること。
安心していられる場所、役割がある場所、自分の存在が認められていると実感できる場所。
そうした「居場所」があるとき、人はそこにいたいと思い、自然と力を発揮し始めます。
しかも、居場所の力が本当に必要なのは、むしろうまくいっていないときかもしれません。
思うように結果が出ないとき、ミスをして落ち込んでいるとき、自信をなくしかけているとき。
そんなときにも「ここにいていい」と感じられる場所があることは、
働く人にとって大きな支えになります。
だからこそ、“辞めないようにする”のではなく、
“ここにいていいと思える関係性をつくる”ことこそが、定着支援の本質だと私は思うのです。
「辞めない職場」だけを目指すと、定着は続かない
「離職を防ぎたい」「定着率を上げたい」――このようなご相談をいただくことがあります。
もちろん、離職は企業にとって痛手ですし、人材の流出は防ぎたいところです。
でも、ただ在籍しているだけで、やる気を失っていたり、心が離れていたりする状態では、
企業にとっても社員にとっても苦しい時間が続いてしまいます。
定着とは、「なんとなく残っている」状態ではなく、「ここで働き続けたい」と思える状態をつくること。
そしてそれは、制度や仕組みだけでは届かない、“感情のつながり”や“人との関係性”が支えているのだと感じます。
社員は、いつも「ここにいていいか」を感じながら働いている
私自身、これまでたくさんの現場に関わってきましたが、強く感じていることがあります。
それは、社員はみんな、組織の中で「自分の居場所」を探しているということです。
仕事の能力や年数に関係なく、誰もが「ここでいいのかな」と不安になる瞬間があります。
例えば、新しく入社した人。チーム異動したばかりの人。
あるいは、経験を積んでも役割を見失いそうなとき。
そして、うまくいっていない時期――成果が出ない、自信がない、周りに迷惑をかけてしまった……。
そんなときほど、人は「それでも、ここにいていいのかな?」と、自分の居場所を確かめたくなります。
だからこそ、
「あなたがいてくれて助かってるよ」
「ミスは誰にでもあるから、大丈夫」
「一緒にやっていこう」
そんな言葉が、本当に必要になるのです。
小さな役割、何気ない声かけ、ほんの一言の承認。
その積み重ねが、「ここに自分の場所がある」と感じさせてくれるのだと思います。
居場所を築くためにできること
では、どうすれば社員にとっての居場所をつくることができるのでしょうか。
大がかりな制度や施策を打たなくても、日々の中にできることがたくさんあります。
- ① 日常の声かけで「気づいているよ」を伝える
ちょっとした変化や努力に対して、「最近よく頑張ってるね」「あの対応よかったよ」と声をかける。
その一言が、「ちゃんと見てくれている」という安心感につながります。 - ② 小さな役割でも“お願いする”ことで存在意義が生まれる
「○○さんにお願いしたいんだけど」と頼ることで、その人の中に“役立っている”実感が生まれます。
これは、うまくいっていないときほど、自信回復にもつながる大切な関わりです。 - ③ 感謝や承認をためらわずに伝える
「ありがとう」「助かったよ」――たったそれだけで、人は自分の価値を再確認できます。
とくに、ミスや失敗があった後こそ、感謝やねぎらいの言葉は“支え”になります。
どんな人にも、自分にとっての“居場所の形”があります。
一人ひとり違うその形を尊重しながら、日常の関わりの中で、少しずつ「ここでいいかも」と思える環境をつくっていくことが大切です。
居場所がある組織には、人が育ち、人が残る
社員の定着を支えるのは、制度や待遇の充実だけではありません。
一番大きな支えになるのは、「ここに自分の居場所がある」と思える気持ちです。
それは、うまくいっている時の充実感だけでなく、
つまずいた時にもそっと寄り添ってもらえるような関係性の中で育まれます。
そして、それだけではありません。
うまくいっている時いない時関係なく、
なんでもない日常の中で「ここにいていい」と感じられること。
特別な言葉や演出がなくても、挨拶や声のトーン、目が合ったときの安心感。
そんなふうに、自然な毎日の中で“居場所”を感じられる組織が、いちばん強いのだと思います。
安心して働ける空気感。自分の強みを活かせる役割。仲間とのつながりや、日々のちょっとしたやりとり。
それらが積み重なって、「この場所にいたい」と自然に思えるようになるのだと思います。
私たちは、誰かにとっての“居場所”をつくる存在にもなれるし、誰かにとっての希望にもなれる。
そんな職場を一緒に育てていけたら、それはきっと、離職を防ぐ以上の価値を生み出していくはずです。
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